J1第2節サンフレッチェ広島対横浜Fマリノスの一戦を広島目線中心に振り返る。
互いに持ち味を出す均衡した戦い
押し込む広島と深さを消す横浜
広島は主に地上で繋ぎながらビルドアップを進め、横浜の4-4-2のプレスをいなしながら前進していく。町田戦では序盤に消えるていることが多かったシャドーの加藤とトルガイだが、この試合は列を落ちながらビルドアップに参加する場面が多くみられた。
対する横浜はミドルサード以降の低い位置からは4-4のブロックをしいて特に両サイドで深さを取られないようにような守備対応を行う。これにより広島にポケットの位置の攻略を許さず、サイドからのクロス攻撃を封じ込めることに成功する。広島はブロックの前からクロスをするも横浜の整った守備に対してなかなか効果的なクロスを供給できなかった。
広島のハイプレスと横浜の攻撃
横浜はGKから地上で繋いでの前進を試みるが広島はハイプレスでコースを限定して横浜の前進を阻止する。逃げ道としてCFのロペスまたは植中を起点として前進しようとするが対人に強い荒木と田中がマークについて潰すため自陣で窒息する状況となった。そのためロペスがマークを回避するために列を落ちて起点になろうとするが、そうすると前を向いて攻撃の形になっても前線での人数不足に陥り攻撃で迫力が出せないジレンマに陥ってしまっていた。
結果として両者ともに持ち味を出すも決定的な場面をつくれない状況が続いた。
広島エースの得点と横浜の打開策
ハイプレスを成功させて広島先制
47分、広島は横浜陣地の深い位置からプレスで田中が植中からボールを奪取、加藤のクロスに合わせたジャーメインのシュートがキニョーネスの手に当たりPKを獲得する。これを新エース・ジャーメインがしっかりと決める。互いに持ち味を発揮し相手に決定機を作らせなかった中、得意のハイプレスを成功させて我慢比べに勝った広島が先制に成功する。横浜にとって相手のシュートが味方選手の手に当たったのはアンラッキーな面もあるが、いままで許してこなかった深い位置への侵入と危険な位置でのシュートに繋げた広島の攻撃が1枚上手だったともいえる。
SHの流動的なポジショニングで広島のマンマークを攪乱する横浜
前進に苦労してきた横浜は広島のマンマークディフェンスを逆手にとる方法で状況の打開を図る。前線のロペスと植中が起点役としてなかなか機能しない中、SHが流動的に動いて起点役になろうとし始める。具体的にはSHが中央まで絞った位置取りやSBの近くまで下がった位置取りをすることで、広島CBがマークにつき続けるのを難しくさせ、フリーマン化することで前進に繋げる役割を担うという方法だ。実際に69分にはマテウスが中央まで移動してきてパスの受け手となったのを足がかりにエリア内でのシュートまで繋げている。
このような横浜の攻撃に対して広島はリードしている状況からもリスク管理を優先しWBの選手が位置を落として、流動的なSHと対面にいるSBの両方に対応できる位置取りをすることで対処しようとする場面が見られた。しかし、マークの曖昧性と複数選手の管理という負荷が高い役割のウィークを突かれて89分には自陣深い位置まで前進を許してしまうという場面(絞ったSH井上にWB管がついていった時に空いたスペースでSB松原がボールを受けて前進し深い位置の攻略を許した)もあった。
終盤の交代策を使った攻防
徐々に広島を押し込んでいく横浜は一気に4人の選手を入れ替えることで圧力を強めてくる。左サイドをSH(遠野→エウベル)、SB(ウォルシュ→鈴木)共に入れ替えて攻撃的な選手を配置した横浜に対して試合開始から出ているWB中野の分が悪くなっていった。それに対して広島は中野に代わって新井を投入することでエネルギーをリフレッシュさせて橫浜の攻撃に対抗しながら、低い位置での逃げ道役として組み立ての安定化を図る。さらに終盤にはクローズ役として越道をCF起用することで逃げ切りを目指した。
結果として広島が最後まで失点を許さず、1-0のスコアで勝利をおさめた。
組織力と個の能力が融合した広島の守備
試合を通して互いに組織的な守備と高い個人の能力を融合させた堅固な守備で相手の攻撃を無力化するなか、最初に掴んだビックチャンスを得点に繋げた広島が逃げ切り勝利した。
試合全体を通した広島の戦いを振り返る。この試合では、準備してきた自分たちのスタイルを相手に押しつける状況と相手に打開され自分たちのスタイルを発揮できない状況という異なる2つの状況があった。前者の状況では、事前に準備していたとおり、スペシャルな個人の能力を軸として選手同士が連動する組織的な守備が機能し、相手の反撃を抑え込むことができた。一方、後者の状況では想定外の事態も発生したが、最適解とは言えないまでも次善の策を講じ、崩壊を防ぐ柔軟な対応を見せることができた。これまでは組織としての対応が後手に回る場面では不利な状況を覆すことが出来ないまま試合を終えることも多々あった広島だが、今季は昨季までの戦術的な上積みに加え各ポジションでタイプの異なる強力な新戦力が加入したことによって、後手に回る場面でも高い個人のパワーを発揮することでチームを救う場面がいくつも見られた。組織力と強力な個が融合した今季の広島はより柔軟かつ強固なチームへと成長していることを実感させられる試合だった。